巨人シャープ、液晶特許戦略の光と影 (記事2/2) ~鴻海傘下で描く新たな知財戦略とは?~

知財ニュース

こんにちは。Hanaoです!

前回の記事では、シャープがいかにして優れた液晶技術を開発し、それを特許で保護し、さらにはサムスンやAUOといった世界の強豪たちと巧みなライセンス戦略を繰り広げてきたかを見てきました。

今回は、その続きとして、シャープが時には他社の特許の前に苦杯をなめた経験、そして経営危機を経て鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入ったことで、その特許戦略がどのように変わろうとしているのか、未来への展望も含めて探っていきたいと思います。

「盾」としての特許、時には「身銭を切る」判断も

自社の特許を「矛」として活用する一方で、他社の特許は「盾」として尊重し、時にはライセンス料を支払う判断も必要になります。シャープも例外ではありませんでした。

2013年、シャープは三洋電機(当時はパナソニック傘下)から液晶関連特許の侵害で訴えられていましたが、最終的に和解し、シャープが三洋電機に対してライセンス対価として38億円を支払うことで決着しました。

これは、シャープにとって痛い出費であったことは間違いありません。しかし、事業を継続するためには、他社の有効な特許を尊重し、必要な対価を支払うという判断も時には不可欠です。知財の世界では、自社の権利を守ることと、他社の権利を尊重することのバランスが非常に重要なのです。

特許戦略は経営の羅針盤?~収益とリスクの影響~

シャープにとって、特許を中心とした知的財産戦略は、単に技術を守るためだけのものではありませんでした。それは経営戦略そのものと深く結びついていたのです。

  • 収益への貢献: 前述のAUOからのライセンス収入のように、特許は直接的な収益源となることがありました。これは、研究開発投資の回収や、さらなる開発への原資となります。ただ、シャープの決算資料などでは、知財からの具体的な収益額が大きく取り上げられることは少なく、その全体像を正確に把握するのは難しいのが実情です。
  • 事業リスクのコントロール: 特許訴訟は、敗訴すれば多額の賠償金や製品の販売差し止めといった大きな経営リスクを伴います。シャープが積極的にクロスライセンスを進めた背景には、こうしたリスクを未然に防ぎ、安定的な事業運営を目指す狙いがあったと考えられます。
  • 市場での優位性確保: 革新的な技術を特許で保護することで、他社に対する技術的なアドバンテージを確立し、製品の競争力を高める効果がありました。「世界の亀山モデル」のブランドイメージも、こうした技術的優位性なしには築けなかったでしょう。

しかし、ご存知の通り、シャープはその後、厳しい経営環境に直面します。液晶事業への巨額投資や激しい価格競争などが要因となり、経営危機に陥りました。この間、知財戦略がどのように機能していたのか、あるいは限界があったのかは、詳細な分析が必要ですが、強力な特許ポートフォリオを持っていても、それだけでは企業経営のすべてを安泰にできるわけではない、という厳しい現実も示しています。

鴻海(ホンハイ)の翼のもとで~変化する知財戦略~

2016年、シャープは台湾の鴻海精密工業の傘下に入り、経営再建を進めることになります。この大きな変化は、シャープの知財戦略にも新たな動きをもたらしています。

鴻海グループは、世界最大のEMS(電子機器受託製造サービス)企業であり、膨大な数の製品を製造・供給しています。そのビジネスモデルにおいて、知的財産、特に特許は極めて重要な役割を果たします。

シャープの持つ質の高い特許群は、鴻海グループ全体にとっても大きな価値を持ちます。鴻海傘下に入ってからのシャープの知財戦略には、以下のような特徴が見え隠れしています。

  • グループ全体の知財戦略との連携: シャープ単独ではなく、鴻海グループ全体の知財戦略の一翼を担う形での活用が進んでいると考えられます。
  • 知財管理の高度化: 鴻海グループは、AI(人工知能)を活用した特許分析システムなど、先進的な知財管理ノウハウを持っているとされます。シャープの知財部門も、こうしたノウハウを取り入れ、より戦略的かつ効率的な特許活用を目指している可能性があります。実際に、シャープの知財部門は分社化され、鴻海の知財業務も受託する専門企業(ScienBiziP Consulting Inc.の日本法人)がその役割を担っているようです。
  • 「特許は売らない」方針?: 鴻海のトップからは、「シャープの特許は売らない」といった発言も出ており、貴重な知財を安易に手放すのではなく、グループ内での活用や、より有利な形でのライセンス戦略を強化していく方針がうかがえます。

シャープが生み出してきた数々の革新的な液晶技術とその特許は、形を変えながらも、今なお重要な経営資源として生き続けています。鴻海という新たなパートナーを得て、シャープの知財が今後どのように活用され、新たな価値を生み出していくのか、引き続き注目していきたいと思います。

かつて世界を席巻した「技術のシャープ」。そのDNAは、知財戦略という形で、未来へと受け継がれていくのかもしれません。


いかがでしたでしょうか?シャープの液晶特許戦略の壮大な物語、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。技術や知財の世界は奥が深いですが、こうして見てみると、私たちの生活や経済と密接に繋がっていることが分かりますね。

なんでもよいので、気づいたことはお気軽にコメントください。ではまた!


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