日本の衛生文化を創造:温水洗浄便座、知られざる覇権争いと知財戦略 (1/2) ~「快適」はこうして生まれた!TOTOとINAXの開発競争と市場開拓~

知財ニュース

こんにちは。Hanaoです!

今や日本の家庭や公共施設で当たり前のように見かける温水洗浄便座。海外では「ハイテクトイレ」として驚きをもって迎えられることも多い、日本が世界に誇る製品の一つですよね。ボタン一つで快適な洗浄と乾燥までしてくれるこの便座、実はその裏では、私たちの想像を超えるような企業間の熱い開発競争と、それを支える「知的財産」を巡る攻防があったことをご存知でしょうか?

今回は、特にTOTOとINAX(現LIXIL)という二大巨頭が、いかにしてこの市場を切り拓き、そしてどのような技術でしのぎを削ってきたのか、その「意外と熱い」歴史を紐解いていきたいと思います。「知財や経済のことはよくわからない…」という方にも楽しんでいただけるよう、分かりやすく解説していきますので、ぜひお付き合いください。

温水洗浄便座、その誕生と日本の「おもてなし」文化

温水洗浄便座のアイデア自体は、実は日本発ではありません。医療用や福祉用として、1960年代にはアメリカやスイスで既に存在していました。日本で最初にこの分野に足を踏み入れたのは、伊奈製陶(後のINAX、現LIXIL)です。

  • 1964年: INAXの技術者がスイスで「クラウス・オ・マット61」というおしり洗浄器に出会います。
  • 1967年: INAXはこれを日本人向けに改良し、国産初の温水洗浄便座「サニタリーナ61」を発売。当時の日本の住宅事情や日本人の体格に合わせ、温水機能や暖房便座機能も搭載されました。これは、まだ水洗トイレ自体が完全に普及しきっていなかった時代からすると、非常に先進的な取り組みでした。

一方、TOTO(当時は東洋陶器)も1964年にアメリカ製の「ウォッシュエアシート」の輸入販売を開始しますが、こちらは湯温が不安定だったり、ノズルの角度が一定しなかったりと、日本の市場で受け入れられるには課題が多かったようです。そこでTOTOは、1978年から本格的な自社開発へと舵を切ります。

TOTO「ウォシュレット」登場!市場を切り拓いた技術と執念

TOTOが満を持して1980年に発売したのが、おなじみ「ウォシュレットG」です。この製品は、まさに日本のトイレ文化に革命を起こしました。

開発にあたり、TOTOは徹底的なデータ収集を行います。 「お湯の最適な温度は何度か?」 「ノズルの最適な位置や角度は?」 社員300人以上のお尻の位置を計測し、0.1℃単位でお湯の温度を変えて体感を調査するなど、地道な努力を重ねました。その結果導き出されたのが、「お湯の温度38℃、ノズルの角度43度」という黄金比だったのです。

当時の技術的な課題は山積みでした。 特に「水」と「電気」という相性の悪いものをいかに安全に共存させるか。ヒントになったのは、意外にも「交通信号機」。雨風にさらされても正確に作動する信号機の、電子部品を樹脂で固める防水技術を応用し、安全性を確保しました。また、お湯の温度を一定に保つために「サーミスタ」という温度センサーを採用するなど、数々の新技術が投入されました。

そして、ウォシュレットの普及を決定づけたのが、1982年に放映された衝撃的なテレビCMです。 「おしりだって、洗ってほしい。」 女優の戸川純さんが出演したこのCMは、当時まだ「お尻を洗う」という行為が一般的でなかった日本社会に大きなインパクトを与え、賛否両論を巻き起こしながらも、ウォシュレットの認知度を一気に高めました。

  • データ収集: 社員300人以上から肛門位置、最適湯温データを収集
  • 最適値の発見: 洗浄角度43度、湯温38℃
  • 技術的課題克服:
    • 防水技術:交通信号機をヒントに電子部品を樹脂で保護
    • 温度制御:サーミスタ採用で安定した湯温を実現

INAXの追撃と独自技術:「シャワートイレ」ブランドの確立

TOTOのウォシュレットが市場を席巻する中、INAXも黙ってはいません。INAXは「シャワートイレ」ブランドで対抗し、独自の技術でTOTOを追撃します。

INAXが特にこだわったのは、よりきめ細やかなユーザーニーズへの対応です。 例えば、女性のデリケートな部分を優しく洗浄するための「レディスノズル」。これは、おしり洗浄用のノズルとは別に、女性専用のビデノズルを設けるというもので、多くの女性ユーザーから支持を得ました。TOTOの初期モデルが単一ノズルで洗浄位置を調整する方式だったのに対し、INAXは2本の専用ノズルを持つことで、衛生面や洗浄感の違いをアピールしたのです。

他にも、

  • 便座が自動で開閉する「フルオート便座」
  • 使用後に自動で便器を洗浄する機能 など、快適性や利便性を高める機能を次々と開発し、市場での存在感を高めていきました。

こうして、TOTOの「ウォシュレット」とINAXの「シャワートイレ」は、互いに切磋琢磨しながら日本のトイレを進化させていったのです。それはまさに、技術とアイデアのぶつかり合い。この競争が、日本の温水洗浄便座を世界最高レベルにまで押し上げる原動力となりました。

しかし、この華々しい技術開発競争の裏側では、もう一つの静かで熾烈な戦い、すなわち「特許」を巡る戦略が繰り広げられていました。次回の記事では、この「特許戦争」とも言える知財戦略の側面に、より深く焦点を当てていきたいと思います。一体どのような特許がキーとなり、企業戦略にどう影響を与えたのでしょうか?

(記事1/2 終)

なんでもよいので、気づいたことはお気軽にコメントください。ではまた!

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