こんにちは!『理系技術者の「知財×経済」』へようこそ!Hanaoです。
前回までの記事で、東レと後発医薬品メーカーとの間で争われた「かゆみ止め」薬の特許訴訟について、 [記事1:訴訟で何が争われたのか?] [記事2:217億円賠償の経済的インパクトは?] といった内容を詳しく見てきました。
今回は「番外編」として、あの知財高裁の判決が出た後、実際に企業がどんな反応を示したのか、そして株式市場がどう動いたのかという、よりリアルな動きに焦点を当ててみたいと思います。法的な判断が、実社会にどんな波紋を広げたのか、一緒に見ていきましょう!
◆ 判決後の企業の“声”:プレスリリースから読み解く三者三様
2025年5月27日の知財高裁判決は、東レにとっては勝訴、沢井製薬と扶桑薬品工業にとっては敗訴という結果でした。この大きなニュースに対し、各社はどのようにコメントを発表したのでしょうか?ポイントを絞って見てみましょう。
- 東レ(勝訴):喜びと知財重視の姿勢を強調 東レは、「主張が認められ喜ばしい」と判決を歓迎。今回の判決を「医薬特許訴訟における重要な判決」と位置づけ、知的財産を保護し、新しい価値を創造していくという企業姿勢を改めて強調しました。今後も知的財産を守るために適切な対応を取るとの力強いメッセージでした。
- 沢井製薬(敗訴、親会社サワイGHDが発表):全面的に不服、最高裁へ 沢井製薬の親会社であるサワイグループホールディングスは、「到底容認できるものではなく、当社の主張を著しく無視したもの」と判決を強く批判。第一審では勝訴していただけに、悔しさがにじみます。速やかに最高裁判所への上告を含む法的手段を講じると表明し、徹底抗戦の構えです。業績への影響は「精査中」とのことでした。
- 扶桑薬品工業(敗訴):同様に不服、具体的な財務影響も公表 扶桑薬品工業も、「誠に遺憾であり、到底承服できかねる」と判決に強い不満を示し、最高裁へ上告する準備を進めると発表しました。注目すべきは、この判決を受けて2025年3月期の決算で約87億円の特別損失を計上し、最終損益が赤字に転落する見込みであると具体的に公表した点です。一方で、問題となった特許は既に期間満了しており、製品の安定供給には影響ないことも付け加えていました。
各社の発表からは、それぞれの立場と今後の戦略が垣間見えますね。東レは知的財産戦略の正当性を、敗訴した2社は最高裁での逆転を目指す姿勢を鮮明にしています。
◆ 市場はどう反応した?気になる株価の動きをチェック!
さて、このような大きなニュースが出た後、株式市場はどのように反応したのでしょうか?ここでは、判決報道があった2025年5月27日から数日間の主な株価の動きのポイントを見ていきます。
- 東レ:堅調、ややポジティブな反応 判決直後から株価は比較的安定し、やや上昇傾向を見せました。市場は、この勝訴判決をある程度好意的に受け止めたようです。直接的な賠償金収入というよりは、東レの知的財産戦略の強さが再確認されたことが評価されたのかもしれません。一部証券会社が目標株価を引き上げたとの報道もありました。
- サワイグループホールディングス(沢井製薬の親会社):大幅下落、続落 こちらは厳しい反応でした。判決当日から株価は大きく下落し、その後も下落傾向が続きました。市場が、巨額の賠償責任と敗訴という事実を深刻に受け止めたことがうかがえます。
- 扶桑薬品工業:報道翌日に急落、こちらも厳しい展開 判決当日の株価反応は限定的でしたが、翌日に急落しました。これは、判決内容に加えて、同社が具体的な特別損失額(約87億円)を発表したことが市場に浸透したためと考えられます。
やはり、判決内容は各社の株価に明確な影響を与えたようですね。下記にリリース直後の株価の動きを掲載しておきます。

◆ この動きから何が見える?今後の展望は?(ポイント凝縮!)
今回の判決とそれに対する各社の動き、そして市場の反応から、いくつかの重要なポイントが見えてきます。全記事と重複もありますが、どうぞ。
- ジェネリック医薬品業界への警鐘: 今回の高額賠償は、特許紛争のリスクを抱えたままジェネリック医薬品を発売する戦略(「アットリスク」上市)がいかに危険であるかを改めて示しました。今後は、ジェネリックメーカーも特許調査をより慎重に行い、知財戦略の見直しを迫られるかもしれません。
- 先発医薬品メーカーの戦略強化: 一方で、新薬を開発するメーカーにとっては、研究開発投資の価値と特許権の重要性が再確認された形です。知的財産をしっかりと保護し活用していく戦略が、今後より一層重要になるでしょう。
- 戦いはまだ続く…最高裁へ: 沢井製薬、扶桑薬品工業ともに最高裁へ上告する意向を示しており、この法廷闘争はまだ最終決着していません。最高裁がどのような判断を下すのか、引き続き注目が集まります。
この一連の出来事は、医薬品業界におけるイノベーション(新しい薬の開発)とアクセス(薬の価格や普及)のバランスという、大きなテーマにも関わってきます。
全記事でも書いたように、私自身はイノベーションが重視される判決には賛同したい立場です。特に最近はトランプ関税や薬価改定で新薬開発は一層厳しくなっていますので…
◆ まとめ
今回は番外編として、東レの特許訴訟判決後の企業の具体的な声明や株価の動きを見てきました。知的財産に関わる事象が、いかにリアルタイムで企業活動や市場経済に影響を与えるのか、その一端を感じていただけたのではないでしょうか。
「知的財産」と「経済」は、こうして密接に絡み合いながら、私たちの社会を動かしているのですね。
また、注目していれば、いち早く特許訴訟の情報を得ることも不可能ではありません。そういった情報収集に関しても、追って記事を書ければと思います。
次回からは、ようやく知的財産と経済について解説していきます。では、また!
(この記事は、公開されている情報や提供されたレポートを基に、分かりやすくお伝えすることを目的としています。株価情報は常に変動するものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終決定はご自身の判断でお願いします。)
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